米国ウォール街の金融機関に対抗
2016年のギャロップ調査では、銀行を「大いに信頼している」とした米国人はわずか27%で、1979年の半分以下。しかも銀行にうんざりしているのはリベラルや左派だけでなく、平均してそうなのだ。
ましてや、経済を崩壊させてきたウォール街金融機関への不信はもっと大きい。銀行や金融機関は国の経済を潰してまで金儲けに腐心、困ると我々の税金で救済、その後何の責任も担わず、涼しい顔だ。
ウォール街に見られる営利金融への対抗として、銀行を本当に公共に役立つ金融機関として考え直す運動が、米国に生まれつつある。「公共銀行」は新しい発想ではないが、米国では1世紀前のノースダコタ州での試み以外は、一般的ではなかった。
ところが最近、公共銀行への関心が生まれ始めた。主に民主主義的資本所有という発想から生まれたこの運動は、やがて経済的平等と公正、環境保護、人種や社会的公正という原則に基づく、強固な公共銀行インフラを作り出すだろう。
公共銀行への関心の高まりは、2008年の金融崩壊直後から。人々は、安全にカネを管理できるバンキング、例えば地方信用組合や地方銀行など、グローバル規模の金融資産を扱わないところへカネを移し始めた。公共銀行主張者は、個人や個人商店用のバンキングが自治体の財政を安全に扱う規模になることを望んでいる。
かつてのノースダコタ銀行は、1919年、中西部で農業ポピュリズムが台頭した時期に超党派的連携により設立された。米本土唯一の公共銀行で、農民を略奪的金融機関から守る目的があった。ウォール街からの妨害に勝利し、今では州のバンキング・エコシステムの中で地位を確立している。2008年の金融崩壊の悪影響が他州に比べて小さかったのも、ノースダコタ銀行のおかげであった。
地球やコミュニティの破壊には 投資せず、格差是正に資金を
ノースダコタ銀行と同じモデルを全国的に広めようという運動が始まった。「カリフォルニア州、ワシントン州、オレゴン州、ペンシルバニア州、ニューヨーク州などの多くの市で取り組みが始まっている」と公共銀行推進者は語る。
他の銀行と異なる点は民主主義的ということである。民衆が公共銀行のサービス内容や納税者のカネの投資先を決めるばかりでなく、投資や融資をしてはならない事業も決定する。
「ダコタ・アクセス・パイプラインへの反対運動の中で、自然や生活を破壊する事業にウォール街が投資していることが議論された。自分たちの預貯金や地方税が、銀行を通じて自分たちのコミュニティや地球も破壊することに使われていることへの認識が高まった。だから、自分たちのカネが価値観に反するものに使われないよう、公的銀行が発想された。公正で持続可能な経済に貢献する公的銀行設立運動が始まった」と活動家は言う。
公共銀行設立には中央政府や州政府のけん引が必要だが、運動の主体は市レベルである。サンフランシスコが先頭に立っている。
「国中の市で公共銀行の必要性が議論されているが、サンフランシスコが一番よいモデルになるだろう。世界で一番裕福で世界で一番不平等な市だからだ」と、サンフランシスコ公共銀行推進連合のカーティス・ウーは語る。
「市街には7000人のホームレス住民がいる。家賃はワン・ルーム・アパートで4000ドル。市内のインフラ崩壊、公共輸送は無秩序状態。こういう状態の修正に資本を向けるメカニズムとしても公共銀行が必要だ」。